性同一性障害(GID)の外科治療

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1.富山大学附属病院ジェンダーセンターの設立

 2021年10月1日、富山大学附属病院にジェンダーセンターが設立されました。性同一性障害(GID; Gender identity disorder)の患者さんが、安全かつ安心して希望される乳房切除術、性別適合手術をはじめとする外科治療を受けられるようにするためです。形成再建外科・美容外科、第二外科、産婦人科、泌尿器科、神経精神科、小児科など6つの診療科の医師、看護師、臨床心理士、その他、計23名の多職種からなるチームで、患者さんをサポートいたします。

2.LGBTQ+とトランスジェンダー

 セクシュアルマイノリティーであるLGBTにはL(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)がありますが、最近ではLGBTQ+と表現することもあります。これまでの国内調査では、全体の8.6%がLGBTQ+で、そのうちトランスジェンダーが1.8%と報告されています。身体の性別に対して心の性別に違和感がある状況をトランスジェンダー、性同一性障害(GID)と呼びますが、トランスジェンダー女性(身体の性が男性で、心の性が女性)、トランスジェンダー男性(身体の性が女性で、心の性が男性)に大別されます。身体性に対して強い違和感を持ちながら生活されているGID患者さんも多いため、適切な治療が必要です。

LGBTQ 性のあり方4要素

3.GIDの診断と治療

GID 性同一性障害とは

 産婦人科医もしくは泌尿器科医が、身体所見(場合により超音波検査を含む)、染色体検査、ホルモン検査を行い、身体的性別の診断を行います。また2名の精神科医がそれぞれ、療育歴、性行動歴、性別違和の実態を把握し、他疾患を除外して、GIDの診断を行います。

その結果を元に、ジェンダー判定会議(精神科医、産婦人科医、泌尿器科医、形成外科医、弁護士などで構成)で診断を確定し、患者本人が望む性別に向けての治療開始の可否を判定します。治療は本人の希望に沿って行われます。精神的サポートを受けながら、実生活経験(Real Life Experience; RLF)、ホルモン療法が行われます。

4.GIDの外科治療

性同一性障害の診断・治療・性別変更までの流れ

 外科治療はトランスジェンダー女性とトランスジェンダー男性でそれぞれ異なる手術が行われます。国内で現在、最も多く行われているのが、トランスジェンダー男性に対する乳房切除術です。そもそも乳房の大きさと形態は、患者さんそれぞれで異なるため、手術方法も大きく分けて4つあります。重要なのは乳腺をしっかりと切除しつつ、乳頭乳輪を小さくして男性様の胸壁を形成することです。また念のために切除した乳腺の組織内に悪性腫瘍がないかどうかも確認します。当院では、切除後に失われる乳頭乳輪の神経再建や,傷痕を目立たなくする切開アプローチ、乳頭乳輪の血流障害を予防する工夫なども合わせて行います。

性別適合手術は、性腺を除去して、外性器を望む性別に近づける手術になります。GIDの性別取り扱いの特例に関する法律(2003年成立)により、一定の条件を満たした上で、性別適合手術後に戸籍の性別変更が可能となっています。またそれ以外に、トランスジェンダー女性に対する豊胸術、顔面女性化、喉頭隆起切除術およびトランスジェンダー男性に対する顔面男性化手術などの治療があります。

 富山大学では、まずトランスジェンダー男性への乳房切除術から開始します。性別適合手術、その他については少しずつできる手術を拡げていく予定です。

性同一性障害の外科治療

5.課題と今後の展望

 2018年4月からGID患者さんを対象とした乳房切除術、性別適合手術は、GID学会の認定医が在籍する認定施設では、一定の条件下において保険適用で実施できることになりました。しかしホルモン療法を先行して開始している場合には、これらの外科治療は混合診療とみなされるため、保険治療の対象とはなりません。いずれにしても、この問題は解決される方向に向かうと考えています。富山大学附属病院では、トランスジェンダー男性への乳房切除術を自費診療で開始しましたが、GID学会の施設基準をできるだけ早くクリアして、学会の施設認定をめざします。多くのGID患者さんが富山大学附属病院にて保険診療で、安心して治療できるように尽力いたします。対象は県下だけでなく、近隣県、北陸をはじめ全国でお困りの患者さんを、広くお引き受けいたします。